(1)概要
「田辺文庫」とは、田辺元の蔵書や、直筆のノート、日記、手帳、原稿など、田辺元の所有物(遺品)や執筆物などの総称です。現在は、京都大学大学院文学研究科図書館と、群馬大学総合情報メディアセンター(中央図書館)に「田辺文庫」があります。
蔵書目録として、京都大学田辺文庫のものが1冊、群馬大学田辺文庫のものは、洋書篇・和漢書篇の2冊あります。京都大学関係者が運営されている京都学派アーカイブから閲覧可能です。
(2)歴史
以下、田辺文庫の成立からの歴史を、2019年9月20日に実施した本会のプロジェクトの際に発見された資料(下掲)および、上記の蔵書目録内の記述などに基づき、紹介します。
1961年(昭和36年)初め、田辺元に田辺山荘の蔵書を寄付する意志があることが、田辺の弟子である大島康正・下村寅太郎(東京教育大学、現・筑波大学)から群馬大学附属図書館に伝えられます。同年9月、これに基づく調査により、蔵書一覧表が同図書館により作成されます。
1962年(昭和37年)4月29日、田辺元没。同年6月、田辺山荘の蔵書のうち、京都大学文学部に収蔵されていなかった和漢籍605冊、洋書807冊、計1412冊、寄託書79冊を、京都大学文学部へ移送します。(注:京都大学田辺文庫目録に「寄託書79冊」の記述があるが、下掲の資料にはない)
1963年(昭和38年)9月、田辺山荘に残る和漢書3192冊、洋書2780冊、計5972冊のほか、雑誌やパンフレット類の、群馬大学学芸学部への受け入れが決定します。(注:移送は翌年11月)
1964年(昭和39年)3月、京都大学文学部受入分の田辺文庫目録が完成します。
*京都大学文学部図書室編『田邊文庫目録』1964年、京都大学文学部図書月報、別巻第七
同年11月、群馬大学寄贈分を田辺山荘から群馬大学附属図書館学芸学部分館に移送します。
1965年(昭和40年)7月、群馬大学田辺文庫目録(洋書篇)が完成します。
*群馬大学付属図書館学芸学部分館編『田邊文庫目録』(1)洋書篇、1965年
1967年(昭和42年)4月、群馬大学附属図書館機構の改正に伴い、田辺文庫が附属図書館本館へ移されます。
同年11月、大島康正(東京教育大学、現・筑波大学)により、田辺元の遺品(勲章・原稿・ノート等)が、群馬大学に移管されます。これに伴い、同27~28日、群馬大学附属図書館にて、「田辺元文庫遺品展」が開催されます。
1968年(昭和43年)3月、群馬大学田辺文庫目録(和漢書編)が完成します。
*群馬大学付属図書館編『田邊文庫目録』(2)和漢書篇、1968年
2018年(平成30年)8月28日~9月26日、群馬大学総合情報メディアセンター(中央図書館)にて、ギャラリー展示「哲学者・田辺元が群馬に遺したもの~群馬大学中央図書館貴重書コレクション『田辺文庫』~」が開催されました。主催は群馬大学総合情報メディアセンターで、本会はこれに協力する形で参与しました。
この展示会初日に、川井博義(本会代表)によるギャラリートークが実施され、同年、9月14日、本会臨地調査研修にて、群馬大学田辺文庫の見学・調査が行われました。近年の本会活動の詳細は、「案内・記録」をご参照ください。
(3)価値・意義
①蔵書
田辺元の蔵書には、本人の手による書き込みがあります。田辺元がその本のどのような点に興味・関心を抱いたのかなどが、それらを手がかりに明らかになることがあります。また、田辺元がどのような書物を手に取っていたか、収集していたかということは、思想の影響関係を研究する際の重要な手がかりになります。
②原稿
田辺元の全集は全部で15巻あり、筑摩書房から出版されています。全集に収められる前に発表された論文(初出論文)の原稿や、新聞などに掲載された見解の原稿なども田辺文庫には所蔵されています。何かの問題について、もともとどのように田辺が考えていたのか、それがどのように変化していったのかという哲学の変遷などを研究する際に、これらの原稿の調査が必要になることがあります。
③日記・手帳
田辺元の直筆の日記・手帳なども田辺文庫には収蔵されています。原稿にする前の様々な考察や日常のメモなどが残されています。田辺の思考過程を明らかにする際の手がかりになることはもちろん、田辺元がどのような生活をして、いかなる人々と交流していたかといった哲学・思索の背景的要素についても、これらを手がかりに明らかにすることができます。
また、著書・論文で公開する前、いつ頃から何らかの問題について意識・考究していたのかということを検討するための手がかりにもなります。
④書簡・手紙・所持品
田辺が受け取った書簡や手紙、田辺が国内外で入手した物品、写真なども残されています。書簡・手紙のやりとりとしては、現在、以下のものが書籍として公刊されています。
・竹田篤司・宇田健『田辺元・野上弥生子往復書簡(上・下)』岩波現代文庫、2012年
(初出は岩波書店、2002年)
・『田辺元・唐木順三往復書簡』筑摩書房、2004年
・谷川徹三を勉強する会編『谷川徹三への手紙:田辺元書簡』同会、2014年
文人や哲学者たちが何をどのように考え、受け答えしてきたのかという文化的交流を明らかにするとき、重要な手がかりとなるものが、書簡や手紙です。その交流の中で、様々な考えが生まれ育まれるからです。田辺が受け取った手紙や書簡の一部が田辺文庫に収められています。
写真や田辺が所持していた物品(遺品)は、田辺の生活や交流の姿のみならず、当時の生活文化を知る上でも貴重な資料であると言えます。上掲のように、1967年11月27~28日に群馬大学附属図書館(現・総合情報メディアセンター中央図書館)にて「田辺元文庫遺品展」が開催されました。田辺文庫にはこうした田辺の所持品(遺品)も資料として収蔵されています。
(4)田辺文庫未収蔵資料
田辺記念館には、まだ一部の遺品(各種資料)が残されています。2019年9月20日に本会では田辺賞設置委員会の支援を受けて、「田辺記念館残存資料記録保全プロジェクト」を実施しました。
これは、資料の保存としてはよいとは言えない環境下に置かれている残存資料群を、写真撮影して記録として保存するというプロジェクトです。これにより、記録としては保存できましたが、資料自体はそのままになっているというのが現状です。
本会および本会関係者の田辺関連資料に対する取り組みについては、「田辺資料保存の取り組み」にまとめてありますのでご覧ください。
2019年9月20日、本会によるプロジェクトの際に発見された資料(「田辺文庫の整理経過について」群馬大学附属図書館作成、作成日時不明)
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